オリジナル色が強いので注意
あまりにも不憫な及川を愛してあげたい…というコンセプト
同棲しているらしいイラストレーターくん視点で及川を愛でます
キャラ捏造/絡みなし/独白/若干キモイ(私が)


『今日は帰る』

 予期していなかったメールに驚いて、椅子から転げ落ちそうになった。だって、純さんが帰ってくる。数えるのをやめているということは、すでに1週間は家を空けているはずだ。長すぎる。電話で2回くらい声を聞いたけれど、30秒足らずで切られてしまったし、背後の喧騒で何を言っているのかほとんどわからなかった。だから実質、純さんとは10日くらい接触していない。もう一度言おう。長すぎる。
 しかし予告どおりに事が運べば、そんな孤独に満ちた日々も今夜で断ち切られそうだ。純さんも鬼ではないらしく、俺が音を上げる一歩手前で救いの手を差し伸べてくれることが多い。無愛想で口が悪くて荒っぽいけれど、純さんは人の心の動きに誰よりも敏感な男だと俺は信じている。
 たった5文字の言葉に舞い上がってすぐに返信メールを作成したものの、送信しないまま携帯を閉じた。仕事の邪魔をするくらいなら「なんで返事しない」と怒られた方がいい。俺は携帯を握り締め、意味もなくサイドボタンを押してみた。知り合ってすぐ、純さんと同じキャリアに変えた携帯電話。そっけないメールや繋がらなかった履歴ばかりだけど、二人で過ごした日々が確かにつまっている。ディスプレイに表示される俺の名前を見て、純さんは愛しさやそれに近いものを感じてくれているのだろうか。自分の存在が彼の心に何か少しでも働きかけているとしたら、ほんとうに嬉しいと思う。
 早くも夕食の献立を考え出した頭では、仕事になりそうもない。俺はひとり笑いをしてパソコンの電源を落とし、部屋の中を見渡した。独身の男が住んでるなんて信じがたいくらい綺麗に片付いている。純さんの性癖と俺の努力の賜物だ。ここに住まわせてもらえることになった時、「掃除は得意か」と聞かれた意味を、俺はすぐに悟った。純さんは極度の綺麗好きなのだ。ちなみに「潔癖症」という言い方は好きじゃないから、使わない。
 俺が純さんについて知っている情報は、わずかばかりだ。警視庁捜査四課で毎日ヤクザを追いかけ回していること。剣道の世界選手権で優勝した経験があること。煙草はウィンストンで、コンドームなしのセックスは無理。それと、真性ゲイで叶わぬ恋をしていること。最後の項目は自分も似たようなものだ。俺はバイで、純さんに片想いしている。ただどうしようもなく純さんが好きだから、目がくらむほどハードルの高いこの恋に身を投じている。

「……早く会いてえな」

 魂が渇望していると言っても過言ではないくらい、純さんに会いたい。声が聞きたい。からだに触れたい。どうして、なんて野暮なことを考えるのはやめた。「なぜ好きか」という問いには答えられない。「好き」が理由ではだめなんだろうか?
 ひとりで哲学をしながら、汚れたスニーカーに足を突っこんだ。バイクの鍵をポケットに入れてドアを開ける。今なら近所のスーパーでタイムサービスが始まったばかりだ。朝刊を取りに出た時にはどんよりしていた世界が、眩しいくらいに輝いて見えた。


end. (2008/11/26,2011/9/22テキストページにアップ)
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